遺産管理人の権限
遺産管理人は、保存行為及び管理行為をする権限を有します(家事事件手続法200条3項、民法28条・103条)。
なお、権限があるとしても、これら行為をすることがすべて許されるわけではなく、行為の態様によっては、善管注意義務違反となりうる可能性がある点には注意が必要です。
保存行為とは、遺産の現状を維持する行為をいいますが、具体的には、以下のような行為です。
①相続登記
②被相続人のした売買契約又は取得時効に基づく移転登記
③不法占有者に対する妨害排除請求
④消滅時効の中断
⑤期限の到来した債務の弁済
⑥応訴
⑦上訴
⑧預金の払戻し・口座の解約(ただし、定期預金の満期前解約は処分行為になります)
⑨貸金庫の開扉
なお、①から④について、訴訟提起を行うことは処分行為になります。
管理行為とは、物又は権利の性質を変じない範囲内の利用又は改良行為をいいますが、具体的には、以下のような行為です。
①民法602条の期間を超えない賃貸借契約の締結
②使用貸借契約の締結
③詐欺による取消の意思表示
④賃貸借契約、使用貸借契約の解除
⑤現金の預金口座への預入れ(ただし、片岡武編「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)295頁は変更行為として権限外行為許可が必要とします)
管理行為を超える処分行為を行うには、家庭裁判所の権限外行為許可の審判が必要になります(家事事件手続法200条3項、民法28条)。具体的には、以下のような行為です。
①売却、交換、担保の設定
②廃棄、取壊し
③期限未到来の債務の弁済、管理行為により発生した債務の弁済
④訴えの提起、訴えの取下げ、和解、調停の申立て、請求の認諾・放棄、上訴の取下げ
⑤民法602条の期間を超える賃貸借契約または借地借家法の適用のある賃貸借契約の締結
⑥定期預金の満期前解約
⑦生命保険契約の満期前解約
遺産管理人が、権限外行為許可を受けずに権限外行為を行った場合には、代理権踰越の行為となり、無権代理として無効となるのが原則です(民法113条)。
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