遺産管理人と相続人の関係
管理人は、相続人の法定代理人と考えられており、
遺産管理人には、遺産の保存行為等の権限が与えられている一方、
遺産の目録作成や交付といった職務を行う必要があります(家事事件手続法200条3項、民法28条、29条)
一方、相続人については、遺言執行者がある場合の、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないといった規定(民法1013条)はないため、
遺産管理人が選任されても、相続人の遺産に関する管理処分権が失われるものではないと考えられています。
このことから、遺産管理人が選任されたとしても、遺産に関する事件について、相続人は、当事者適格を失わないと考えられています。
たとえば、遺産管理人が選任されている場合に、相続人が遺産である不動産について、共有物の保存行為として不実の登記の更正登記手続を求めて訴訟を提起した場合、当事者適格はあると考えられています(東京高判平成5年10月28日。ただし、この裁判例では、遺産管理者の管理権行使と抵触するような管理権の行使は許されないと解する余地があるとの留保がつけられています)。
また、遺産管理人選任審判において、家庭裁判所は、相続人等の事件の関係人に対して、財産の管理に関する事項の指示を行うことが考えられます(家事事件手続法200条1項)。ただし、これは勧告的効力を有するにとどまり、仮に相続人等が家庭裁判所の指示に反する行為を行ったとしても、遺産管理人がこれを差し止めることはできないと考えられています。
このように、遺産管理人が選任されても、相続人は、遺産に関する管理処分権を有し、また、家庭裁判所の指示に反する行為を行ったとしても、遺産管理人がこれを差し止めることはできないため、遺産管理人選任による保全には、一定程度の限界があることは確かです。
相続人の一人が遺産を売却していることが差し迫っているときなど、保全の必要性が高い場合には、遺産分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分等を行うことも考えられます(家事事件手続法200条2項)。
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